炭水化物摂りすぎも原因? 食事見直しでうつ改善も
偏食を避け、必要な栄養素をバランスよく取る。一見、当たり前のようにも思えるアプローチで、うつの症状が改善することがあるという。
埼玉県在住の女性(38)が職場で体調を崩したのは、2017年のことだ。長く勤めた会社を辞め、その次に働いていた会社での出来事だった。
「言葉がきつい人たちばかりで、とにかく否定ばかり」。上司や先輩に何か言われただけで、涙が止まらなくなった。職場のストレスが原因だと考えた。
うつを疑い、病院を受診すると、診察時に行った血液検査で、意外なことがわかった。「フェリチン」といわれる鉄を貯蔵するたんぱく質の値が低いのだ。フェリチン不足は体内で鉄が欠乏していることを示し、セロトニンなど脳内ホルモンがスムーズに生成されにくくなるなどと言われている。結果的に心のバランスを崩すこともあるという。
診察したのは、埼玉県川越市の山口病院の奥平智之医師だ。奥平医師によると、鉄や亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群、コレステロール、ビタミンDなど、多くの栄養素とうつ症状は関係する可能性があるという。
冒頭の女性の場合、麺類や丼ものなど炭水化物を好んで取る偏食を長く続けていた。職場でのストレス対応もしながら、奥平医師の指導通りに肉や魚、野菜を中心にした食生活に変え、サプリメントの処方も受けて、フェリチンの値を上げた。2度にわたり休職したが、18年秋には完全に復職したという。
東京都の国立精神・神経医療研究センターの功刀浩・疾病研究第三部長も、こう話す。
「栄養状態を改善し、うつ症状も改善するというのは、21世紀になって広がった考え方です」(功刀医師)
功刀医師によると、栄養とうつの関係について国内外で多くの論文が発表されている。たとえば、功刀医師らが18年に発表した鉄欠乏に関する論文では、うつ病患者1千人と、うつ病ではない1万879人を対象に調査。鉄欠乏性貧血になったことがある人の割合はうつ病にかかった人で20.3%、うつ病にかかったことがない人たちで14.4%と開きがあった。また、別の調査では、現代人に不足しがちとされるビタミンB群の一種、葉酸について、健康な人で5~10%程度、うつ症状がある人で20~30%程度が不足していたという結果も出た。
「脂肪酸やミネラル、アミノ酸とうつの関連も、国内外の研究で指摘されています」(功刀医師)
東京・新宿溝口クリニックの溝口徹医師は、1998年にいちはやく精神疾患の治療法に栄養指導を取り入れた。指導を受けた女性(53)に話を聞いた。
女性は97年に長男を出産した後、疲労感と抑うつ状態から自宅で寝込む日が続いた。病院で血液検査をしても異常は見つからず、家事や子育てに支障が出た。夫に「怠けている」と罵倒され、長男が2歳半くらいのとき、長男を連れ実家に帰った。
うつの治療はなかなかうまくいかなかったが、06年に心の病と栄養との関係を指摘した溝口医師の著書を読んで、新宿溝口クリニックへ駆け込んだ。
体の栄養状態を知るための血液検査では、鉄分、ビタミンB群、ビタミンC、たんぱく質などが不足しているとわかった。
これまでの炭水化物を中心にした食事を改め、不足していた栄養素はサプリメントで補った。数年後症状はなくなり、夫がいる自宅に戻ったという。
栄養改善によるアプローチは、60年代にカナダの精神科医が提唱したのが始まりだ。が、「現在もまだ浸透している治療法とは言えない」(功刀医師)という。
「うつは一つの原因だけで発症するものではありません。その点も十分に踏まえ、睡眠や運動などの指導とともに治療方法を検討するべきです。ただ、食事による治療はもっと注目されてもいいと思います」(功刀医師)
医食同源という。健康的な食生活が体の、そして心の健康の足を引っ張るはずはない。(編集部・小田健司)
※AERA 2019年8月5日号
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